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スイングタイム/オータサン  <ライナーノート>

 ジャズ研究家 出口一也  

のっけから私事で恐縮だが、例年、仕事の合間を見て家族で北軽井沢を訪れ、カミさんの両親の別荘に数日滞在するのを楽しみにしている。そして、そのときには必ず、何枚かのオータサンのCDを持っていくことにしている。北軽井沢は、牧草地や畑、森林の広がる緑豊かな場所だ。浅間山を間近に望み、広々とした空間がとても魅力的なところでもある。森の中に作られた別荘地は、ゴールデンウィークをはじめ気候の良い休日などは賑わうものの、平日などは全く閑散としている。いくばくかの寂しささえ感じるほどだが、普段都会の喧騒の中で過ごしているものにとっては、それがまたリラックスした気分を感じさせてくれる。そんな北軽井沢の自然や別荘地の環境に、オータサンの音楽が、まさにピッタリとはまる。さらに、木を基調としたこじんまりした別荘の中で、オータサンのアコースティックなウクレレはとても美しく響く。折りたたみの寝椅子を広げてゆったりと身をまかせ、オータサン・サウンドに耳を傾けるのは実に心地よい。楽しさが心の底から沸き上がってくる。やがて夢の中へ…ということもしばしば。こんな気分を一度でも味わってしまうと、オータサンのCDなしではいられなくなってしまう。“オータサン=ハワイアン=海”なんて単純な図式で割り切ってしまうのは、もったいないし、申し訳ない。“オータサン”は、楽しいコトをしたい、豊かな気持ちになりたい、と考えている人の必須アイテムなのだ。
 思い起こせばオータサンの魅力に本当に気付いたのは、10年ほど前に発売されたアルバム『ウクレレ・ウェーブ』からだったと思う。もちろん、それ以前もオータサンの名前は聞きかじって知っていた。失礼にも“オータサン=ハワイアン”なんて単純な図式で考えて、十分に聴きもせずに余り注目していなかったのは、何を隠そう自分のことなのだ。が『ウクレレ・ウェーブ』は、ストレートに心の中に入ってきた。<ウェーブ>や<イパネマの娘>などムーディで心地よい演奏も好きだが、中でも特に深く印象づけられたのがオータサンのウクレレを全面的にフィーチュアした<ラプソディ・イン・ブルー>だった。そもそも1920年代のアメリカのポピュラー音楽やジャズが好きで、この<ラプソディ・イン・ブルー>も作者ジョージ・ガーシュインのピアノをフィーチュアしたポール・ホワイトマン楽団のオリジナル演奏で楽しんでいた。だからオータサンの演奏を聴いて、こんな難しい曲を実に巧みに、表現豊かに、しかもウクレレ1本で…と、本当に目からウロコが落ちる思いがした。とにかく“ポーッ”となってしまったのだ。そうしてレコード屋でオータサンのアルバムを目にするたびに買いあさるようになり、数年間、夢中になって聴いた。だから今回の『スイングタイム』のもとになっているアルバムのひとつ『デジャ・ヴ』なども実は持っていたりする。しかしその後は、本来の1920年代の音楽やジャズに興味が戻っていった。
 そんなオータサン熱が再燃するきっかけとなったのが、3年前にビクターより発売された『ウクレレ・デュオ/ハーブ・オオタ&ライル・リッツ』(VICG-60452)である。またしてもオータサンの世界に引きずり込まれる結果となったのだ。2本のウクレレが生みだすアコースティックなサウンド、オータサンとリッツの素晴らしいコラボレーション、そして何よりも表現力の豊かさと味わい深さと透明感、文句のつけようがない。これらは、どことなく1920年代の音楽に相通ずるところがある。さらに、見事なふたりのアドリブ、スイング感あふれるリズムと、ガチガチのジャズ・ファンにも十分アピールする魅力を備えている。オータサンのCDに共通する特徴でもあるが、スタンダード・ナンバー中心の選曲も、取っつきやすさという点ではプラスだ。無人島にひとりで置き去りにされたときに是非持っていたいレコード、いわゆる“無人島レコード”を一枚選べと言われたら、間違いなく『ウクレレ・デュオ』(と、ちょっと反則だが、もう一枚、戦前の日本で吹込を行った女性歌手ミッジ・ウイリアムスのSP盤)を選ぶ。それほどまでに好きなアルバムなのである。このときから本当にオータサンから逃げられなくなってしまった。
 以後、オータサンの新作が発表される6月をいつも心待ちにしてきたが、今年はオータサンの音楽生活40周年(デビュー55周年)を記念して、ビクターから『スイングタイム』と『クールタッチ』(VICP-62765)の2タイトルが同時発売になるという。そして本作『スイングタイム』は、そのタイトルが示す通り、オータサンのスイング感あふれるウクレレ・ジャズを、これまでハワイのみで発売された音源の中から選りすぐった珠玉の名演集だ。世界一のウクレレ・プレイヤー、最高の音楽表現者たるオータサンの真髄が縦横無尽に発揮され、『ウクレレ・デュオ』などに勝るとも劣らない内容といえよう。またサックス、ピアノ、ギターなど伴奏陣も優れたプレイヤーばかり、全体として統一感のある、ジャズ・ムード満点の素晴らしいアルバムに仕上がっている。さらに、ジャズのスタンダード・ナンバーやポピュラー・ヒット曲を中心に、1930年代から80年代に至る名曲が幅広く選ばれており、これまでオータサンに馴染みがなかった方々も、きっと楽しんでいただけることと思う。少なくとも私にとっては、これから長くつきあうことになるアルバムの一枚であることは間違いない。

出口一也 (ジャズ研究家、2004年5月記)

曲目解説
  1. ソング・イズ・ユー / THE SONG IS YOU
     1932年11月に初演されたブロードウェイ・ミュージカル『音楽は空のかなたに(Music In The Air)』のために、オスカー・ハマースタイン2世が作詞、ジェローム・カーンが作曲したナンバー。このミュージカルは34年に映画化され、『空飛ぶ音楽』の邦題で戦前に日本公開されている。当時レコードではジャック・デニー楽団の演奏でヒットしたが、以後、スタンダード・ナンバーとしてフランク・シナトラ、ドリス・デイら、数多くのミュージシャンが取り上げている。
     オータサンは、アルバムの冒頭を飾るに相応しい軽快なテンポ、リラックスしたムードで演奏している。ポール・マークのハモンドオルガンのバッキングが、そのリラックス感を盛り上げる。オータサンのアドリブも堂々たるもので、本作が“ジャズ・アルバム”であることをしっかりと認識させられる。

  2. チュニジアの夜 / A NIGHT IN TUNISIA
     ジャズの分野ではよく知られた名曲のひとつで、一種独特の雰囲気を持つ作品。ジャズにラテン・リズムを導入した先駆的作品とされ、作者はアルトサックス奏者チャーリー・パーカーらとともに1940年代を代表するジャズ・スタイル“ビ・バップ”の推進に大きく貢献したトランペット奏者ディジー・ガレスピーと、彼のバンドのピアニストだったフランク・パパレリで、1944年に出版された。当初は<インターリュード>というタイトルで、サラ・ヴォーンの歌唱ヴァージョンなど44年から録音はあるが、名演として知られるのは、作者ガレスピー自身や前述パーカーのレコード(ともに46年録音)。
     この録音では、オータサンのウクレレが大きくフィーチュアされる。オリジナルよりはややテンポを落として演奏しているようだが、オリジナルの雰囲気をよくとらえた好演で、最初のテーマからアドリブに移るブリッジ部分の演奏に見事さを感じる。

  3. あなたは私のすべて / YOU'RE MY EVERYTHING
     モート・ディクソン、ジョー・ヤングが作詞、ハリー・ウォーレンが作曲し、1931年のレヴュー『ラーフ・パレード(The Laugh Parade)』で紹介された曲。31年から32年にかけてアーデン・オーマン楽団、ラス・コロンボ、ベン・セルヴィン楽団のレコードがヒットしたほか、この曲名と同名の1949年の20世紀フォックス映画『ユアー・マイ・エヴリシング』(日本未公開)でも用いられている。
     ここでは、1950年代から活動を続けているジャズ・ピアニスト、ピート・ジョリー、そして同じく50年代からスタン・ケントン楽団などで活躍したハワイ出身のアルトサックス奏者ゲイブ・バルタザーと共演。ジャズ的センスあふれる1曲で、オータサンは、オリジナルのメロディを大切にしながら、ツボを得たアドリブを展開する。共演のふたりも素晴らしい

  4. ウォーターメロン・マン / WATERMELON MAN
     ジャズ・ピアニスト、ハービー・ハンコックが1962年に発表したゴスペル調のファンキーなナンバーで、少年時代を過ごしたシカゴでよく耳にしたスイカ売りの声をイメージし、アメリカの黒人として自分の背負っているバックグラウンドを表現することを念頭に置いて書いた曲といわれる。記念すべき彼の初リーダー・アルバム『テイキン・オフ』(ブルーノート)の1曲目に収められているほか、ハンコックが時折り参加していたモンゴ・サンタマリア楽団の演奏が63年にビルボード全米ポップ・チャート10位にランクされる大ヒットとなった。日本でも人気の高いジャズ曲のひとつである。
     オータサンの力強い演奏を聴いていると、本当にウクレレなのかと疑いたくなる。ピエール・グリルのキーボード、トニー・フローレスのパーカッションが曲の特徴であるファンキーさを盛り上げる。

  5. 枯葉 / AUTUMN LEAVES
     世界的に大ヒットしたシャンソンで、この曲ばかりを集めたCDが最近発売されるなど日本でも有名な不朽の名曲である。もともとは1945年に初演されたローラン・プチのバレエ『ランデヴー(Rendez-vous)』のためにジョセフ・コスマが書いた曲だが、マルセル・カルネが監督した翌46年の映画『夜の門(Les Portes La Nuit)』の中で用いられる際に、詩人のジャック・プレヴェールが歌詞をつけ、出演したイヴ・モンタンが歌った。50年にはジョニー・マーサーが英語詞をつけてビング・クロスビーが録音、アメリカでも知られるようになった。その後55年にはピアニスト、ロジャー・ウイリアムスのレコードが大ヒットし、ミリオンセラーとなったほか、56年には映画『オータム・リーヴス(Autumn Leaves)』(日本未公開)の主題歌として使われ、ナット・キング・コールがそのサウンドトラックを吹き込んでいる。ジャズでは、トランペット奏者マイルス・デイヴィスの演奏がよく知られている。
     『ウクレレ・デュオ』でも演奏しているが、好きな曲なのだろうか。原曲の素晴らしさを十分に引き立てた演奏で、オータサンの表現力の確かさが感じられる。ここでもポール・マークのハモンドオルガンが活躍、ギター・ソロはジミー・フナイ。

  6. クレオパトラの夢 / CLEOPATRA'S DREAM
     偉大なジャズ・ピアニストのひとり、バド・パウエルが作ったナンバーで、1958年12月に吹き込んだ“アメージング・シリーズ”最後のアルバム『ザ・シーン・チェンジズ』の冒頭を飾る曲。エキゾティックな雰囲気とマイナー調の曲想からか日本で大ヒットし、前述のアルバムはパウエル最大の人気盤となっている。
     この演奏では、オータサンが全面的にフィーチュアされる。タンゴ・アレンジでテンポを落として演奏し、この曲から、オリジナルの演奏とは一味違う魅力を引き出している。

  7. 愛のハーモニー / THAT'S WHAT FRIENDS ARE FOR
     <雨にぬれても><アルフィー>など数々のヒット曲を世に送り出したバート・バカラックが作曲、その奥さんだったキャロル・べイヤー・セイガーが作詞した、美しいメロディの曲。1982年のワーナー映画『ラブINニューヨーク(Night Shift)』のために作られたもので、当時ロッド・スチュワートが歌ったが、85年、エイズ撲滅を目的としたチャリティ・レコードとして、黒人歌手ディオンヌ・ワーウイックとスティーヴィー・ワンダー、グラディス・ナイト、エルトン・ジョンという錚々たる顔ぶれのフレンズたちが吹き込んだ演奏がアルバム『フレンズ?、のハーモニー』に収録され発表されると、これが大ヒット、86年1月から4週間全米第1位にランクされたほか、その年の年間チャートでも堂々1位を記録した。またその年のグラミー賞(年間最優秀楽曲)も受賞している。
     オータサンは、この曲の美しいメロディを丁寧に弾き、ポップであると同時に、ムーディで味わい深い演奏に仕上げている。曲の持つ魅力、良さが完璧なまでに引き出されており、このアルバムの中で私が個人的に好きな演奏のひとつでもある。

  8. 私の心はパパのもの / MY HEART BELONGS TO DADDY
     1938年のミュージカル『私にまかせて!(Leave It To Me!)』のためにコール・ポーターが書いた曲で、このミュージカルでブロードウエイ・デビューを飾ったメリー・マーチンが舞台で歌った。当時、このマーチンがエディ・デューチン楽団と共演したレコードやビー・ウエインの歌をフィーチュアしたラリー・クリントン楽団の演奏がヒット・チャートに登場している。マリリン・モンロー、イヴ・モンタンが主演した1960年のフォックス映画『恋をしましょう(Let's Make Love)』にも用いられ、スクリーンの中でモンローがあの独特の甘い声で歌ったが、一般にはその印象の方が強いかもしれない。
     オータサンの演奏は、ブルース・ハマダのベースとのデュオによるもの。このシンプルな編成が、ジャズ・フィーリングを感じさせる演奏に、さらなる奥行きを与えている。ここでのウクレレのアドリブは“見事”の一言に尽きる。

  9. ポンテイオ / PONTEIO
     前曲とはがらりと変わって、ピエール・グリルのアレンジによるモダンな演奏。オープニングから飛び出すデイヴィッド・チョイのサックスが非常に印象的。どんな曲でも、その曲の雰囲気に合わせ巧みに弾きこなしてしまうオータサンのテクニックやセンスは流石である。
     この曲は、1967年に録音され、翌68年に発表されたのセルジオ・メンデスのアルバム『フェイヴァリット・シングス』で紹介されたもの。作詞はホセ・カルロス・カピナン、作曲はエドゥ・ロボで、ロボのアメリカ・デビュー・アルバム『セルジオ・メンデス・プレゼンツ・ロボ』にも入っている。

  10. 恋の気持ちで / LIKE SOMEONE IN LOVE
     ジョニー・バークとジミー・ヴァン・ヒューゼンのコンビが作り、1944年のRKO映画『ユーコンの女王(Belle of the Yukon)』(日本劇場未公開)の中でダイナ・ショアが歌ったバラッド。メロディ、歌詞ともに美しく、ジャズ・ミュージシャン、歌手が好んで取り上げる曲で、サラ・ヴォーンが十八番にしているのをはじめ、エラ・フィッツジェラルド、チェット・ベイカー、など数多くのレコーディングがある。
     ここでは、味わいのあるイントロの後、ピート・ジョリーらのトリオをバックに軽快な演奏を繰り広げる。オータサンの切々と何かを訴えかけてくるようなウクレレがたまらない。ジョリーのピアノによるバッキング、アドリブもなかなかで、ライル・リッツがベースでまとまりの良いソロをとる。

  11. 愛の翼 / WIND BENEATH MY WINGS
     ラリー・ヘンリー、ジェフ・シルバーが1981年に作ったカントリー・ソングで、83年にゲリー・モリス、ルー・ロールズ、グラディス・ナイト&ザ・ピップス(<ヒーロー>というタイトルで録音)などのレコードでヒットした。また1988年の映画『フォーエバー・フレンズ(Beaches)』でも使われ、主演したベット・ミドラーがサウンドトラックを吹き込んでいる。このミドラーのレコードは89年3月にヒットチャートで全米1位に輝いたほか、その年のグラミー賞(年間最優秀レコード)に選ばれている。
     オータサンは、原曲の持ち味を上手く引き出しているピエール・グリルのアレンジを下敷きに、ムーディかつポップに弾く。バックに聴けるサックスは<ポンテイオ>と同じデイヴィッド・チョイだろう。

  12. マイ・フェイバリット・シングス / MY FAVORITE THINGS
     1959年の有名ブロードウェイ・ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック(Sound Of Music)』の中の1曲。オスカー・ハマースタイン2世が作詞、リチャード・ロジャースが作曲したもので、舞台では主演のメリー・マーチンが、1964年の映画化の際にはジュリー・アンドリュースが歌った。ジャズの世界でも多くのミュージシャンが吹き込んでいるが、中でもサックス奏者ジョン・コルトレーンが1960年10月に録音し、同名タイトルのアルバムに収録された演奏は余りにも有名。
     オータサンは、再びベースのブルース・ハマダとふたりだけで演奏。オータサンのウクレレの音が、切なさを感じさせるメロディと相まって、聞き終わった後いつまでも余韻が残り、もう一度最初から聴きたくなる。

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